醤油のプロに聞く塩へのこだわり
今回は、今年で創業281年という醤油の老舗、入正醤油株式会社の13代目多田庄兵衞さんに、お話しを伺いました!

13代目 多田庄兵衞さん
入正醤油株式会社 代表取締役
老舗の蔵の旦那といえば頑固で怖そうなイメージ、しかも母屋に入ると古い時代に本当に使ったんじゃ?と思われる袖搦がかけてあるし・・・なんて、おののきながら、恐れ気味に挨拶したところ、いえいえ、多田さんはお話し好きで楽しい方、ついつい話がはずんでしました。
創業281年とはいいつつも、醤油屋さんの中では普通、むしろ若い方だとか。「たかだか、13代よ〜、ハッハッハー」といたって謙虚。趣味は桜の写真を撮ること。桜のシーズンには撮影道具を抱えて全国を行脚、70本以上もフィルムを使いきるほど。凝り性ですねぇ。
- <塩なび>
- 母屋も庭も、そしてこの蔵にも長い歴史を感じます。入正さんの醤油は、昔ながらの製法で作っているそうですが、それにしても、こんなに大きい醤油の桶がこれだけたくさん並んでいると圧巻ですね。
- <多 田>
- 桶を使ってるところは、今だとなかなかないよね。うちは、醤油しかつくってない。
この辺も小さな醤油蔵がいくつもあるけど、木の桶だけのところは少ないし、その中でも100本規模でっていうところは全国的にみても、さらに少ないんじゃないかなぁ。
- <塩なび>
- 醤油ができるまで、どれくらいかかるんですか?
- <多 田>
- 醤油を造るのには時間がかかる。特にウチは長いよ。
大手の醤油メーカーなら普通6ヶ月だけど、入正は1年かけてゆっくりと熟成させるんだ。
大抵の醤油屋さんは、高い温度で麹菌を活発にさせて、速く醗酵をすすめさせるんだけど、入正は「低温じっくり発酵」。通年、麹をー11℃の低温の食塩水で仕込む。あったかいと、余計な菌が発生しやすくなるけど、低温ならそういった雑菌は死んでしまう、冷たくても平気な菌が強くなるんだよ。ウチが200年以上守り続けている…っていうか、入正の桶に住んでいる麹菌ってのは、この冷たくても平気な菌。これがうちの醤油の美味しさの素なんだ。これを大事に守ってるわけよ。
- <塩なび>
- この低温に強い麹菌が、味の秘密を握っているってことですか。
- <多 田>
- そう。その秘密は、ちょっと難しいけど、まとめればこう。

この流れ、一切化学の力を借りずに、菌と自然の力だけで行うわけよ。麹を仕込んだらあとは、菌が活躍してくれるのを待つだけ!
- <塩なび>
- 菌と自然の力ですかぁ。(さっそく試食!)香りが濃くて、甘くてコクがある。普通の醤油と口当たりが全然ちがうなぁ。
- <多 田>
ウチの製法で造った醤油は、天然に生成されるグルタミン酸(旨味成分)の量が違う。これが良い味の理由。うちの一番の自慢だよ。やっぱり商売をやっていく以上、うちだけの1番ってのを持ってないとね。- <塩なび>
- グルタミン酸がいっぱいなんですね。本当に創業からこんなにおいしい味だったんですか?
- <多 田>
- 他の醤油メーカーさんが見に来るとびっくりするよ。「こんな低温で醗酵なんかすすむのか?」なんて。でもこの方法は200年以上も前から続いていて、まだ温度も測れない昔から、先祖はこの味の作り方知ってたんだよね、スゴイよね。だから、作り方は、変わってない…というよりも、変えられない。変えたいけど、今の方法を超える事ができないんだよ(笑)。これがウチのこだわりと言えばこだわりだけど、日本の昔からの食べ物ってのは、昔からあまり変わってないように、私もその昔ながらの方法を守ってるだけだね。
- <塩なび>
- さりげなくカッコよすぎるくらいに締めていただきましたが、一応、塩なびはお塩のサイトなので、入正さんの醤油に使われているお塩についても教えてください。
- <多 田>
使う塩は、ごく普通の精製塩を使っているよ。
うちの醤油は、さっきも言ったと思うけど、1年かけてやっとできるんだ。その醗酵の途中で、塩が原因で桶の醤油が駄目になってしまったら、とりかえせないでしょ?だから、ホントに品質が一番安定していて、一般的に一番流通してるごく普通の塩をつかってるんだよね。- <塩なび>
- 塩に関してはスタンダードだったんですね。(実は特別な塩かと期待していた。)
- <多 田>
- でもね、塩ってのは、醤油作りには無くてはならないホントに大事なものなんだよ。塩があるおかげで、不要な雑菌が活動できず諸味がきちんと醗酵して、美味しい醤油ができる。もし、塩がなかったら大豆と小麦の腐った物を作ってるだけになっちゃうでしょ。例えばさぁ、醤油以外にも日本にはそういう食品がたくさんあるけど、魚の干物とか、塩辛なんて、塩が無かったら大変な事になっちゃうよね
- <塩なび>
- 考えただけでぞっとしますね…。ところで、実際、こんなおいしいお醤油だったらもっとたくさん作って安くして儲けたい!とかってないんですか。
- <多 田>
- 商売好きじゃないんだよ。お客さんが、醤油屋さんを選ぶ権利があるなら、こっちも売る人を選ぶ権利もあると思うんだよね。値段を下げなきゃいけないんだったら、あえて売りたいとはおもわないよ。 これからも大手さんとは競争を避けて、小さい蔵だからできるメリットを売りにしていきたい。「高いけど気に入ってるから使う」お得意さんを大事にしたいね。うちは自分でも自信を持ったものをうってるつもりだから、お客さんが使ってみてさ、明らかに美味しかったら、また次もかってくれるでしょ?昔からずっと使ってくれているお客さんも多くて、個人のお客さんもそうだけど、会社のお客さんだと創業当時から今までずっとおつきあいしてくださってるところもあるんだよ。
- <塩なび>
- 田んぼの中の本当にレトロな醤油蔵には、ゆったりと時間が流れているようでした。
気さくな多田さんのお話からは、入正醤油さんが創業から変わらずに大切に守ってきた醤油作りへのこだわり、醤油作りへの熱い想いを感じました。半日もインタビューにつきあってくださった多田さん、本当にありがとうございました。
☆入正醤油を実際に試してみました!
ちょこっとなめるだけで、普通のお醤油とは違う、香りとまろやかさがわかります。
口に含んでも塩がきつく感じない、むしろ甘い感じ。そして濃厚なんです。お刺身にちょこっとつけて食べてみました。刺身の旨みが引き立ちキレのある感じに。
すごい!ラッキーにも一瓶いただいたので、納豆にもかけちゃお。おおっ!?香りがいい!もう、納豆の付属のタレは使えないなぁ。続いて、茹でたてのオクラにかつおぶしと一緒にかけて一口。野菜との相性もかなりよさそうです。
きりがないので、まとめますが、ずばり、贅沢な香りと味のお醤油です。そりゃ、スーパーの特売で100円ちょいで買う我が家のお醤油は違うのはあたりまえかもしれませんが、こういう所でこそ、贅沢をするべきだと感じました。寿司、冷や奴、焼とうもろこし、鍋、すき焼きなど、醤油の香りを楽しむ品にぜひ使いたいと思います。
☆入正さんの歴史
清和源氏の25代目「多田満知」が、寺の再建のために現在の千葉県香取郡東庄に摂津(現在の大阪・兵庫)から移って来た。そのお寺は、6代目が再建し、現在も入正醤油さんの近所にあるそう。
ちなみに、東庄や銚子に醤油屋さんが多いのは、紀州の漁師などが黒潮で上って来て、住み着いたからだそうです。ヤマサさんヒゲタさんはまさにそれ。「うちは、摂津だからちょっと異端なんだよね。」と多田さん。
そして、入正の醤油作りは、4代目までさかのぼる。当時のヤマサ醤油の当主に醤油作りを勧められて、入正醤油を始めたとのこと。(1〜3代目まででどういう経緯があって、醤油屋を始めたのかは、当時の記録がなく、わからないままだとか。)
ところで、入正という名の由来は?
入正醤油の由来はよくわかってないが、普通は、漢字の「入」は「いり」と読んだら「いりまさ」、「にゅう」と読んだら「にゅうしょう」としか読まないそう。入正のマークを見るとわかるのだが、富士山に正しいと付いている事から、マークが先にあり、その形を文字に置き換えたのでは?とも言われている。
入正醤油株式会社
〒252-1123
千葉県香取郡東庄町笹川い2132
電 話 0478-86-1121
FAX 0478-86-4012
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|2005年08月22日 16:24
